第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「とりあえずさちょっとだけでも参加しない？気不味かったら俺たちのそばでいればいいし。合宿中にさ、少しは仲良くなれたんじゃないかなって俺は思ってるんだけど」
「確かに、松川君は色々とお世話になったし」
「どうせならもう少し仲良くなってその敬語もなくしたいんだけどな」
「あ…、敬語。つい癖で」
「いいよ、いちかちゃんの話しやすい方で…」
「じゃあ少しだけ参加しようかな」
「ありがとう。じゃあすぐ行こうか？もうすぐ始まると思うから」
「うん。こちらこそ声かけてくれてありがとう」

関西弁の時の彼女には驚かされたけどこうやって話すとやっぱいちかちゃんって普通の女の子なんだなって思う。特別扱いするわけじゃないけど合宿の時の働きぶりを見ててもこうやって応援に来てくれた優しさを思えばちゃんと御礼をするのが筋だ。

けど運命の悪戯的なこともあるんだるな、タイミングを見計ったように後ろから“すみません”と声が聞こえて俺たちは反射するように振り返るとそこにいたのは星賀ちゃんだった。

「話し中にごめんなさい。柳瀬さん…、今、ちょっといいかな？」
「えーと…、あの、同級生の人ですよね？合宿中に一緒だった」
「星賀さんだよ」
「そう、星賀さん！」

あれだけのことがあったのに名前すら覚えてないとか絶対嘘だろ…。いちかちゃんがいい子なのは分かったけどもしこれわざとやってたら……、ちょっと面白い展開だけど。

「何か用ですか？正直、私、星賀さんにあんまりいい印象がないから」
「ごめん、あんなことあったし警戒してるよね。松川君もそこにいていいから少しだけ時間くれない？」
「松川君は関係ないんじゃない？私だけでいいと思うけど」
「いや俺もいるよ。この前の件、目の当たりにしたしさすがに放っておけない」
「うん。それでいいから」
「で、何？」
「この前のこと、謝りたくて…。ちょっとだけ先輩達に相談したらああなっちゃって…」
「今になって謝るんなら初めからあんなやり方はないと思いますけど？直接私のとこに来たらええだけ。せっかく忘れてたのに思い出したら腹立ってきたわ」