第72章 結婚するまで帰れません(１)　岩泉一

「………ま、お前の言う通り問題はねぇわな」
「だったら純粋な気持ちでお手伝いさせてください」
「さっきも言ったけどクラスメイトとして、だからな」
「わかってます。練習中の格好いい一君を見てにやけそうになっても我慢しますから」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「これ以上好きになっちゃったら大問題ですね」
「お前の思考まじでどうなってんだよ」
「これが恋する乙女脳ですよ」

なにが乙女だよ。初日こそ可愛らしい服着てたけどそれ以降はずっとジャージじゃねぇかよ。ジャージ着た乙女なんて聞いたことねぇわ。

「お前と会話すんのマジで疲れるわ」
「私は幸せですけど？」
「いい加減にしろ」
「はいはい、二人とも。話はその辺にしてご飯にしましょ」
「あ、ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「いいのよ。二人の会話聞いてるの嬉しいから」
「やめてくれよ、そういうの」
「ねぇ、一」
「何？」
「多少は間違いがあっても母さん許すから」
「何言ってんだよ、あり得ねぇから」
「だっていちかちゃんの呼び方、いつの間にか“一君”に変わってるし、あんたも自然に応じてるるし進展してるんだなって母さんも嬉しくて」
「はい。色々あったので」
「おい」
「何があったかなんて野暮なことは聞かないけど冗談抜きでいい関係だと思うわよ」
「よかった。嬉しいです」
「俺は嬉しかねぇよ」
「合宿中、一のことよろしくね。いちかちゃん」
「はい。私も頑張ります」

後ろで平和な会話が繰り広げられてるけど俺はため息しか出なかった。毎度毎度こんな流れで始まるテンションの高い会話。二人で勝手に話してりゃいいのに時々会話に巻き込まれるし、無視してたら泣くふりする母親もいるし、まじで飯くらいはゆっくり食わせてくれ…。なんて俺の思いも虚しく夜は更けていった…。


気が重いまま迎えた合宿当日の朝、肩まである髪の毛を揺らして俺を見つけると嬉しそうに微笑むあいつがいた。


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