【東京リベ】Break down【三ツ谷隆】【ドラケン】
第7章 Break down
昔。
お父さんに言われたことがある。
「タバコを吸ってる時は近づくなよ?」
私はその理由を知らなかった。
言いつけを破ってでも、大好きなお父さんの側にいたかったの。
火傷をして水ぶくれが出来た後に。
私はタバコの火が熱いことを知った。
水ぶくれは痛かったけど、言う事を聞かなかった罰だと思った。
それ以上に、お父さんが悲しい顔をしていたのを覚えてる。
直ぐに冷やしてくれたから、火傷の痕は残らなかったけど。
お父さんを悲しませたよね。
その時に感じた心の痛みが、今でもずっと残ってる。
ごめんね、お父さん。
子供だったの。
熱いって分かってたら近づかなかったよ。
結局、お父さんに本当の意味で「ごめんなさい」を言えなかった。
人を失うのは一瞬で、避けられない事だと。
父の死を持って知った。
大切な人を亡くすのが怖いなら、最初から作らなければいい。
そう考えて生きてきたら、人と関わり合う事がなくなっていた。
大事なものはバイクと少しでいい。
欲張らないから取り上げないで。
神様に何度お願いしたか、分からない。
でも、もうそんな風に祈るのは止めるよ。
悲しい祈りを捧げて続けて、ごめんね。
隆に出会って、私の世界は一変したの。
大切なもので溢れ始めた。
隆のインパルス。
隆の家族。
隆の友達。
大好きな隆の笑った顔。
隆のお陰でぽっかりと空いた心の傷が、漸く塞がってきた気がするの。
人を愛して失うのは、やっぱり怖い。
でもね、また火傷してもいいって。
そう思えてきたんだ。
水ぶくれを冷やしてくれる人がいる。
その傷痕が治るのを思い出せたから。