第10章 聞こえるのはあなたの音【音好きシリーズ】
「さっき炭治郎君が、炎柱様の「それだ!」」…へ?」
話を遮られ、突如大声を上げた炎柱様にポカンとする。
「それだって…なんです?」
炎柱様は首を傾げる私にグッと顔を寄せると
「君も知っているだろう。俺はもう炎柱ではない。例えそうであったとしても、その呼び方は恋人を呼ぶ名としては相応しいとは言えない」
「…っつい…癖で」
「あの時のように呼んでほしい」
そう言って私をジッと見つめる瞳に、頭がクラクラしてしまいそうになる。
「…杏寿郎…さん…」
まだ数える位しか呼んだことのないその名を口にするのは、酷く恥ずかしく、緊張してしまう。杏寿郎さんは満足そうに微笑みながら
「なんだ?」
と私に問う。
「なんだじゃありません。炎…杏寿郎さんが呼んでほしいって言ったんでしょう?」
「わはは!そうだったな」
なんて可愛い人なんだろうか。
「それにしても、ビックリしました。私はてっきり別のお客が私を買ったものだと」
「うむ。危ないところではあったな」
そう言いながら杏寿郎さんは立ち上がり、私の背後に回り込んだ。そしてそのままその腕に私の身体を閉じ込める。
「俺がここに来た時、ちょうどすずねを買いたいと言っている男がいた。だから女将に倍の金額を出すから俺に買わせてほしいと言って横入りをした!」
「っそんなことが…」
私は無理矢理身体を捻り、杏寿郎さんの方を振り向く。
「凄く…嬉しい。守ってくれて…ありがとう」
そう言いながらその頬に
ちゅっ
口付けを落とした。
そんな私を、杏寿郎さんは笑みを浮かべながら見下ろしている。
「口にしてはくれないのか?」
「…する」
私のその言葉に、杏寿郎さんの腕の力が少し緩む。身体の向きを完全に杏寿郎さんの方へと向け、その逞しい首に両腕を絡め
ちぅ
と、先程頬に落とした口付けよりも、濃い口付けを落とした。こっそりと目を開け、杏寿郎さんの様子を伺うと、あの燃えるような瞳はしっかりと閉じられて、代わりに驚くほど長くて綺麗なまつ毛が見えた。
私のまつ毛より長いじゃない。
若干の嫉妬心を抱きつつ、私は杏寿郎さんの唇の感触を堪能する。
程なくし、
ちゅっ
と音を立てて唇を離した。
「…凄く名残惜しいし…お金を払って時間を買ってもらったのに悪いんですけど…調査に行ってきてもいいですか?」