第1章 チタンパート 完
夢の中にいるような感覚だった。
ただ白い空間の中、少しだけ外が見える。
音もないその世界で外を見下ろしていると、チタンくんがキーボードを叩くように弾いているのが見えた。
ダメだよそんな乱暴に叩いたら。私たちミューモンにとって楽器は魂の一部みたいなものなんだから。
そこで私は自身の左手がメロディシアンを握りしめていることに気がついた。
濁ったメロディシアンは今にもその輝きが消えそうで。
『ーーーーー』
顔を上げると、目の前にはチタンくんがいた。
差し出される手に、首を振る。
もう、戻ることはできない。
音楽がただ楽しかったあの頃には戻れない。
「こうなることはわかっていたの。対バンの時の曲を渡した時から。こうなって仕舞えばいいなんて思ってたんだよ、私は」
笑いが込み上げてくる。
願った通りになった。
望んだ通りになった。
馬鹿なこの男は私の思惑通りに動いてくれた。
裏切られた。だから裏切ってやった。
愛していた、愛されたかった。
可愛さ余って憎さ百倍とはよく言ったものだ。
「この男を殺して、私も死ぬ。それで終わり。だからお願い、このまま放っておいて」
しかし目の前の彼は消えることもなく、何かを告げた。
『ーーーーー』
「いいよね君は、弟とも仲良くて、バンドのメンバーとも上手くいってて。私にないものを持ってて!私はね、ずっと君に劣等感を持ってたんだよ……似たような境遇で似たもの同士なのに、なんでこんなに違うんだろうって」