第1章 チタンパート 完
「彼……ピアノやってるんだね。指が鍛えられてる」
その言葉に私は息を呑んだ。
元カレが店に訪れたあの日から、彼は度々顔を出した。
曲を作ってくれ。
私にゴーストライターになれという彼の要求を、最初のうちは突っぱねていた。
彼はチタンくんがいない時を見計らって店に顔を出していた。
「大人気アイドルバンドボーカリストが寂れた楽器店で副業・金持ちバンドが本当はど貧乏でしたーなんて、週刊誌に売ったら面白いことになりそうじゃない?」
「…………脅してるつもり?」
「まさか」
こいつの性格を、嫌というほど知っている私はこめかみを押さえる。
「ああ、アイドルバンドボーカリストが一般女性と密会、まさかの隠し子ってのも面白いね」
「わかった、引き受ける。だから彼を巻き込まないで」
そう告げるとこいつは人好きのしそうな笑顔で満足そうに頷いた。
「ヒロインなら、快く引き受けてくれると思ったよ」
とうの昔に穢れたままのメロディシアンが空に浮かび上がる。
曲を書き上げた時からわかっていたのだ。
歪んだ音楽はミューモン達のメロディシアンを濁らせる。
妬みも、恨みも乗せたこの曲を弾き続けようものなら、彼らのメロディシアンが穢れることなど少し考えればわかることだった。
それでも構わないと思っていた。私に依頼をしたのは彼らだ。