第1章 チタンパート 完
ベースでのイントロが始まった瞬間、胸が痛くなる。
舞台袖で音を直接聞いた俺は耳を塞ぎ、辺りを見回すと観客も、スタッフも、演者ですら苦しそうにもがき始めた。
「っ、これは」
ボーカルの胸から濁ったメロディシアンが浮き上がり、会場から悲鳴があがる。
血のように赤黒く染まったメロディシアン。それが一際強く輝くと、ステージを包み込んだ。
『ぎゃああああああぁぁああっ!!』
ボーカルの喉からこの世のものではないような悲鳴があがる。
ダークモンスター化。最悪を想像し構えるものの、男の全身の力が抜け倒れ込む。
あわてて駆け寄り身体を揺さぶると、男は薄く目を開け乾いた唇で何かをつぶやいた。
「おい、おい!」
意識を手放し、全身の力が抜ける。
首元に手を当てると脈拍を感じ取り生きていることだけは確認できた。
「なんで……こんな」
ふと、闇の力が客席の方に集まっていることに気が付く。
恐る恐る顔を上げると、客席の真ん中によく見知った人物がいた。
「ヒロイン……さん」
仄暗い笑みを湛えた彼女に息を呑む。
「どうして」
問いかけるも彼女は答えることもなく、彼女から溢れた闇の力に会場は呑み込まれた。