第1章 チタンパート 完
ほんの少し、挨拶をする。
目の前の男は俺がこの前店を叩き出した人物だとは思っていないらしい。友好的な握手を求められると、俺は苛立ちを感じ無視をした。
「アルカレアファクトさんみたいな飛ぶ鳥を落とす勢いの人気バンドに誘ってもらえるなんて光栄です」
「こちらこそ。こっちからの申し入れを受けてもらえて嬉しいです。今日はお互いに頑張りましょう」
オリオンがにこやかに握手を返すと目の前の男は不敵に笑った。
「今回の新曲は自信があるんです」
新曲、という言葉に思わず眉を顰める。
ドラマーと目が合うと、そちらはなんだか困ったような怒ったような顔をし、そして俺に気付いたらしく気まずそうに目を逸らした。
「この曲は、俺たちがメジャーデビューする前に亡くなったベーシストに向けて書きました」
男の低い声が会場に響く。
「この曲をアルカレの前座で披露させて貰えることは、凄く光栄なことだと思う」
前の二曲は良くも悪くも平凡だった。
甘酸っぱい恋のようなありふれた歌。
「それでは聞いてください、俺たちの新曲」