第1章 チタンパート 完
夜遅く、容姿の整った男が店内に入ってくると、俺は思わず凝視した。
「ーーヒロインいる?」
優しげな表情を浮かべたその男になんとも言えない複雑な感情が込み上がる。
「今はーー」
いません。
咄嗟にそう答えようとしたその横から、ヒロインさんが何か感じたのかひょっこりと顔を出した。
「どうした?」
ヒロインさんと、その男の視線が交わる。
瞬間その男は嬉しそうに目を細め、一方ヒロインさんはなんとも言えなそうな複雑な表情を浮かべた。
「久しぶり。元気にしてた?」
「……まあ、それなりに。こないだそっちのドラムがうちに来たけど、何か用?」
「ドラムなんて余所余所しい。同じメンバーだったのに」
聞き耳を立てながら、パソコンを立ち上げる。
俺はPOPを作るフリをして、その場に居続けることにした。
「曲を書いてほしいなって思って」
「は?」
「ほら、俺たちってメジャーデビューしてから今まで大きくヒットした曲ってないんだよ。そこそこ人気なのは、デビューする前にヒロインが書いてくれた曲だけでさ」
「え、ちょっと待って。三回忌やろうって話しじゃなくて?」
「アルカレアファクトって知ってる?今度そのバンドの前座やることになってさ……そこで大きな実績ができなきゃ、レーベルと契約切られるんだよ」
男が真剣な顔をする。
「あんたは、ホントっ……」
今まで聞いたことないようなヒロインさんの怒りに満ちた声が聞こえた。
「……なんでそんなに、私をコケにできるの」