第64章 世界一大きな幸せ
(…あ……、)
杏寿郎は菫の髪を梳いた際に、耳上に簪を差していたのだ。
手に取るとそれにはカキツバタの飾りが付いていた。
(初めての贈り物に似ている…。)
菫はそれを思い出すと、いつまでも変わらず自身を大事にしてくれる杏寿郎を尊く思った。
「……大事にします。」
その言葉に杏寿郎は『うむ!!』と満足そうな返事をする。
菫はこの幸せは二人が一緒にいる限りずっと続くのだろうと確信した。
(あの夜、助けてくれたのが杏寿郎さんで良かった…。)
そう思うと簪をぎゅっと握って胸に抱いた。
そして楽しそうに頭上の息子と会話をする杏寿郎の後ろ姿を見つめる。
初めて出会った時は少年で、再会した時だって青年だった。
だが、その背中はもう、立派な父親の背中だ。
「杏寿郎さん!」
杏寿郎は不思議そうな顔をしながら呼び止めた菫を振り返る。
菫はその顔を少し見つめた後、花の様に笑った。
「私が、世界一の幸せ者です。」
それを聞いた杏寿郎は太陽の様に笑う。
杏「では俺達は世界一幸せな夫婦だな!!」
「……そうですね。」
切望した鬼のいない世で、二人はこれ以上ない大きな幸せを手に入れた。
そしてそれはこれからもどんどん大きくなっていく。
戻って来た杏寿郎に頬を優しく撫でられながら、菫は再びそう確信したのだった。
✼·゚おしまい✼·゚