第60章 初めての宴
「私の父はそもそもこの席自体をあまりよく思っていないのです。許可が下りただけでも大きな事なのに、お酒の匂いなど纏わせて帰れば何と言われるか…、」
天「残らないよう調整してやるって。おら!」
菫は眉尻を下げながら鼻先に突き付けられたおちょこを見つめた。
「……………では…、一杯だけ。」
―――
実「オイ…あれ放っといて大丈夫かァ…?」
杏「あれとは…、」
実弥が指し示す方を見ると、菫が赤い顔でうつらうつらとしていた。
今にも目の前のはだけた天元の胸に寄り掛かってしまいそうである。
杏「………宇髄…。」
杏寿郎の声が不穏な色を孕む。
すると天元が振り返って罰が悪そうに笑った。
天「わりぃ…ザルかと思ったらとんでもないゲコだったわ…。」
杏「菫が自ら酒を飲む筈がない。無理に勧めたな。それに俺は菫と酒を飲んだ事がない。」
杏寿郎はそう言いながら大股で歩み寄って二人の間に入ると、ぐらぐらと揺れる菫の肩を掴んでぐいっと抱き寄せた。