第59章 それぞれの
重「酒は飲んでこなかったのだな。」
その問いに菫はグラスを置いて頷く。
「前にも話した通り親しくなった仲間は兄の様に思う圭太さん一人だけでしたし、男女二人で飲む訳にもいきませんでしたので…。」
重國は少し嬉しくなって珍しく笑みを浮かべた。
重「そうか。それなら飲み過ぎないよう気を付けなさい。これはするすると飲めてしまうだろうが、度数はそれなりにある。」
「はい。気を付けます。」
そう言って菫が微笑むと、重國はその柔らかい表情に目を細める。
重「…杏寿郎さんは菫の感情を上手く引き出してくれたのだな。昔は固い私に似ていると言われてしまっていたが、今は随分と柔らかく女性らしい印象になった。」
そう言われると菫は少し頬を染めた。
「お母様や蓮華にも言われました。」
そう言い、またグラスを手に取ると誤魔化すようにワインを飲む。
その頬の赤みが酒から来るものではないと悟った重國は再び目を細めてその変化を喜んだ。
そうして別々になった初日の夜、杏寿郎と菫はそれぞれ遅れた成人祝いを済ませたのだった。