第59章 それぞれの
重(昔から気の利く子ではあったが、この様子では花嫁修業などすぐに終わってしまうのではないのか。)
もう少し家に居て欲しかった重國は『各親戚への報告を予定よりもゆっくりさせようか。』とも思ったが、晴美が必ず止めさせるだろうと思い至るとグラスを置いた。
コトリという静かな音を聞いて菫がハッとする。
「…如何されましたか。」
そう言って少し首を傾げる大人の菫は、手元で大人になった娘ではない。
一人で大人になったのだ。
それを実感しながら重國は菫の手元にあったワイン瓶を手に取った。
「お父様、私がお注ぎします。」
菫が手酌をするのだと勘違いして慌てると、重國は口を付けていない菫のグラスにワインを少し足した。
重「世話ばかり焼いていないでお前も飲みなさい。その為の席だ。若い者も飲み易いであろうワインを選んだ。お前が……、」
―――『…お前が生まれた年に。』
そう付け足そうとして、止めてしまった。