第59章 それぞれの
重「……ああ、お帰り。」
重國が漸くそう言うと晴美と蓮華も出迎えの挨拶をした。
杏寿郎は菫が隣から離れて家族の元へ歩み出すと、引き留めるように手を掴もうとしてしまってハッとした。
重「…………。」
その事に菫も晴美も蓮華も気が付かない。
しかし―――、
「ですが、すぐに嫁ぎに行きます。束の間の帰省だとお思い下さい。」
二人が余りにも喜ぶので、菫は困った様に笑いながらそう言った。
すると案の定、二人はうるさくなる。
一方、菫の言葉を聞いた杏寿郎は握っていた拳の力を解いた。
杏「…では、俺も束の間の三人の時間を楽しんでくるとしよう!重國さん、晴美さん、蓮華さん、慌ただしくて申し訳ないですが、俺はこれで失礼致します!」
そう言ってパッと深く頭を下げると、今度は菫と向き直る。
杏「菫、約束だぞ。二週間で会いに来てくれ。待っている。」
杏寿郎はそう言いながら菫の頭を優しく大事そうに撫でた。
すると菫は頬を少し染めて微笑む。
「はい、約束です。必ず期待に応えますわ。」
そうして菫は清水家へ帰り、そして杏寿郎は煉獄家へと向かったのだった。