第58章 休養―其の弐
杏(…意地の悪い事を考えていたら菫に嫌われてしまう。)
そう思うのに、杏寿郎の手は菫の手の甲から腕を伝って後ろ首に伸びてしまった。
菫の瞳が揺れる。
「杏寿郎さん…、」
引き寄せる方に少し力を入れると菫は眉尻を下げて暫く悩んだ後、少しだけ屈んだ。
杏「もっと寄ってくれ。」
明確に何がしたいという訳ではなかった。
口付けはまだと決めているし、それ以上の事もするつもりはない。
その時はただ、純粋に近付きたいと思っていた。
一方、菫は杏寿郎が何を求めているのかが分からず、臆病になって視線を泳がせていた。
(もっと寄るって…どこまで……?何をするのか先に訊いても良いのかしら。でも気にし過ぎだった場合恥ずかしい思いをしてしまうかもしれないわ。例えば髪にごみが付いているから取ろうとして下さっただけとか…、)
そう思うと視線を横に遣って目に入る髪を見つめるが、当然よくは見えない。
菫は諦めるとぎゅっと目を瞑り、眉を寄せながら更に屈んだ。