第32章 五年前の真実
蓮華は小さくガッツポーズをして『頑張ってください!』と口をパクパクさせている。
杏寿郎はそれに微笑みを返した。
杏「菫さんは徐々に変わってきてくれています!それに―、」
言葉を切って見つめられると、何か嫌な予感がした重國は喉をごくりと鳴らした。
杏「屋敷に二人切りで暮らしているので、もう俺が貰う他ないかと!!」
それは蓮華が言った事であり、杏寿郎の物差しで言った事ではなかったが重國には効果抜群であった。
重「…………二人、きり…?」
そうして重國がフリーズしていると、菫と蓮華の母親が扉をノックした。
母「貴方……?書類を取りにいらしただけではなかったのですか…?部下の方が戻られないと心配して訪ねていらしたわ。」
蓮「お母様……!」
蓮華は慌てて戸を開けに行った。
蓮華が戸を開くと母親、もとい晴美は驚いた顔をした。
晴「まあ。なぜ蓮華がお父様とお話を?邪魔してはなりませんよ。……あら、」
『邪魔はしていません。』と不服そうに抗議する蓮華の頭を撫でながら晴美は杏寿郎に頭を下げた。
晴「お客様がいらしていたのね。お邪魔してしまってごめんなさい。」
杏寿郎は自身の特徴的な風貌を見ても動じない晴美を見て、母親も蓮華同様に何も把握していないのだと悟った。
ちらりと重國を見遣ると、蓮華にも話したのだから妻にもこの機会に話すべきかと迷っているようだった。