第25章 大きな一歩
「はぁ…。」
菫は家を留守にしていた分、いつもより丁寧に掃除を行った。
しかし、溜息の理由はそれが大変であったからではない。
(………。)
木曜日故に律儀に頭巾を外している菫は、ぼーっとしながら自身の手を見つめる。
杏寿郎が『小さくて愛らしい。』と言った手だ。
(煉獄様は嫌味を仰らない。遠回しに剣術に向いてないだとか、そういった意味ではないわ。褒めて下さったんだ…。)
『何の為に?』という疑問が浮かんでくる。
今までにも男に容姿を褒められた事はある。
しかし、ここまで気にする事なく流してきた。
(…でも煉獄様はおかしな事をお考えにはならないわ。客観的な感想を述べられたのかしら。)
人の気持ちなど本人にしか分からない。
今考えても全くの無駄だ。
しかし、菫は気になってぐるぐると思考を巡らせた。
(もし…、もし、万が一、おかしな事になったら…、)
今までは、ちらりとでもそう思っただけで距離を置いてきた。
杏寿郎に関してだって距離を置き、遠くから上官として慕う事も出来る。
それなのに側を離れられないのだ。
(やっぱり私は強欲になっていたんだわ。お側を離れられなくなっている…。)
では上官として慕うという気持ち以外にどんな名前の感情が自身を引き留めているのか。
菫はまだその感情に理解がない。
敬愛する気持ちが大きすぎるあまり、淡い気持ちに気が付けないのだ。
それ故に菫はずっと首を傾げていた。