第20章 触れる理由
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杏「……うむ!よく寝たな!」
杏寿郎はぱっちりと目を覚ますと、顔を洗いに行こうとして襖を開けた。
そして通り掛けに生けた華を見ようと居間を覗いた。
すると、照子のお説教で予定が大幅に押してしまった菫は華を生けている最中であった。
杏「……。」
杏寿郎は足を止め、まだ着物姿で華を生ける菫を見つめた。
今や、華道は決して上流階級だけの趣味ではない。
庶民も嗜む。
それでも杏寿郎は菫の所作と、血眼で探しているという両親の事から、菫が低くはない家柄の娘である事を察していた。
杏(御両親は明日の命も分からない俺を受け入れて下さるだろうか。)
無意識にそんな事を考えてしまって目を見開いた。
―――ギッ
動揺から体が揺れて廊下が軋む。
菫は驚いた顔をして視線を上げた。
「煉獄様、お早うございます。」
菫に声を掛けられると杏寿郎は笑みを作った。
杏「うむ!良い色だな!!」
杏寿郎がそう褒めると、菫は淡い黄色の蝋梅を両手で持って目を細めた。