第7章 門出
「結っ!危ない!!」
グイッと腕を引かれ振り向くと、そこに親父さまを負ぶったカカシがいた。
「っカカシ!!」
話そうとした口を人差し指で止められる。
「話は後!
さき楼主を医者に!」
親父さまはカカシの背でぐたりとして動かない。
顔も体も煤だらけで外傷があるかも分からなかった。
「う、うん!
こっち!!」
わたしは花街にある、よく知る医師の元に駆け出した。
「喉と、背中に火傷してるけど、軽いから大丈夫。
まだ意識も戻らないので、念のため今夜1日入院にしましょう」
「はい。ありがとうございました」
何かあれば呼んでと言い置いて、医者は部屋を出ていった。
親父さまの、まだ拭ききれない煤がついた黒い顔を見ながら心底ホッとしたら、わたしは足にうまく力がはいらなくなってしまい、尻餅をつきそうになる。
「結!大丈夫!?」
後ろにいたカカシが咄嗟に支えて立たせてくれる。
「あ、ありがとう。
なんか、ホッとしたら力抜けちゃって……」
「ここ、座りな」
近くにあった折り畳みの椅子を、カカシが開いて座らせてくれる。
「ありがとう」
「ん。
よかったね、大したことなくて」
「うん……。ホンマ、よかった。
よかったぁ……」
親父さまの肉厚で大きな手をぎゅっと握りしめる。
温かい……
気づくと両目からボロボロと涙が出ていた。
カカシは何も言わず、そっと頭に手を置いてくれた。
しばらくすると涙は落ち着き、わたしたちが行く場所がないことに気づく。
「今晩、どこか他のお店にお部屋借りれるか頼んでみるわ。
お風呂も入りたいよね」
こういうときは、お互い様と助け合うのが花街の風習だった。
どこに行こうかと考えていると、カカシが口を開く。
「どこも混乱してるだろうし、この近くにある宿、取ろうか」
遊女のわたしには思いもつかない考えだった。
外の世界は、わたしには異界だ。
「でも……」
戸惑い親父さまの顔を見たとき、親父さまの口が微かに動いた。
「結、行ってこい」
のどの火傷のせいか小さく掠れた声だけど、確かに親父さまがしゃべった。
「親父さま!!気づいたん!?」
「近くで大きい声出すな!ぐ、ゲホゲホ、ゴホ……」