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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔【P128 ~ 🫖*】


(……私は、)

彼女と我ら執事の間には、目に視えぬ壁がある。

それは見上げる程に高く、それでいて厚く頑丈な壁だ。



微笑んでいた彼女に滲む、拒絶をともなった棘が、ベリアンの胸を軋ませた。



(私に貴女の痛みを分かつことは不可能なのでしょうか)

染みのように広がる痛みを、強く頭を振ることで散らす。



こんな事ではいけない。このような想いは抱くことすら許されない。




遮二無二足を動かしていると、いつの間にか到着したようで。

しかし、誰もいない筈の己の研究室から、鈍い灯りがもれている。



「…………!?」

不審が胸のなかを塗りつぶしていく。

急いて階段を降りきると、控えめに叩扉する。




けれど、しん、と音を許さぬままで。

迷った末に、「失礼いたします」とドアノブを回した。




そこには誰もいなかった。ただ、室内は無惨に荒らされていて。




一輪挿しの花瓶が割られ、そこに挿していた薔薇の花弁が散らされている。



部屋の奥にあった本棚はことごとく倒され、

書物や己がつけていた記録帳がそこかしこに散らばっており、

剥製の天使の模型は硝子が割られ、光なき眼がこちらを見ていた。



そして、その中央に羊皮紙の切れ端が置かれている。

おもむろに拾い、広げてみると。



「……『彼女を返せ』………。」

走り書いたような筆跡で、そう記していた。




丁寧に折りたたんで、上着の内ポケットへと仕舞う。




「……ルカスさんに相談しなくては」

胸のなかでは一つの予感が浮上していて、有り得ないことだと説き伏せる。



………けれどそれでも、

漠然とした胸騒ぎをともなった、さざめく心を静めることはできなかった。
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