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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第2章 主人として


(皆……まるで家族みたい)

ちぎったパンを口にしながら、その瞳が柔さを帯びる。

そのひかりに彼が魅せられていることに、彼女は気づいていなくて。



「主様、お味はどうっすか?」
サラダをとり分けて、問いかけてくる。



「とても美味しいよ」
心からの言葉に、そのおもてを笑みが彩った。



「イシシッ……主様、すげぇ美味しそうに食べてくれるから、オレも嬉しいぜ」

皿を受け取りながら笑いかける。



「ありがとう」

ほんの少しだけ触れあった指先に胸がさざめくのを感じたが、その感覚は笑みの影に隠した。




スープをすくいながら、彼女は昨日のことを思い出す。




(あの天使は、この世界の住人なのかな……。)

この世界に誘われる前、みずからの前に現れた、純白の翼をもつ見知らぬ少年。




鈍色に淀んだ瞳が、追いつめられるにつれて闇が濃くなる絶望が、

思考の奥で瞬いて、こっそりと唇をかんだ。




ゆっくりとした動作で口元に運ぶ。

伏せがちな瞼を彩る灰色の睫は、頬に影を作っていた。



(ベリアンに、あとで聞いてみよう)
伏せていた瞼をもち上げ、前方を見上げた時。



「っ………。」

かち合ったのはロードナイトの瞳。

彼女をみつめていたらしきベリアンは、さっと視線を解いた。



けれどその頬はわずかに朱を散らしていて、知らず笑みをのせた。
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