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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第1章 はじまりの夜


「……にゃあ」

音もなく現れたのは彼女の愛猫。

漆黒の毛並みにガーネットの双眸をもつ彼女の影。



ヴァリスの肩に飛び乗ると、絶えず鳴きながらすり寄ってきた。



「おはよう……マリス」

咽喉の辺りを擽ると、ごろごろと満足そうな音が返ってくる。

そのさまに微笑っていると紅い瞳と視線が交わった。



『おはようございます、ヴァリス様』

彼と瞳を合わせた刹那、その瞳がわずかに揺れる。



恐れと動揺。

そのふたつのいろを混ざりあわせたような、複雑で感情の糸口が視えない瞳。



「マリス?」

戸惑った眼でみつめ返すと、再度ゆらいだ瞳。

一瞬のまやかしから解放されたようで、仄かにかすれた声でつぶやく。



『いえ、何でもありません。それより……お祖母様があなたをお待ちですよ』

まだ邪念に囚われつつも、いつもと変わらぬ口調で告げる。

その声音にやんわりとした拒絶を感じ取って、ヴァリスはそっと同調した。



「えぇ、いこう」
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