第1章 はじまりの夜
「とてもいい天気よ。
テラスに朝食を用意したから、着替えていらっしゃい」
祖母の手がヴァリスを労わるように再度頭を撫でてくる。
その皺を刻んだ手にふれられる度に、胸の奥で温もりが滲んでいく。
その感覚に身を委ねたまま微笑んだ。
「ありがとう。……すぐに行きますね」
ぱたん。微笑みを残し、祖母が部屋を出ていく。
窓の外から降り注ぐ陽光を浴びながら、パジャマの釦を外していく。
そして鏡のなかの自分をみつめた。
彼女の背には傷痕がある。
片翅の破れた蝶が黒曜の翅を大きく広げたような形のそれは、みつめる度に酷く胸が軋んだ。
「……早く着なきゃ、」
クローゼットから太腿上部からウエストにかけて
編み上げたリボンがあしらわれた、紺碧色のシャツワンピースを選んだ。
ぷち、ぷち、と釦を留め、リボンを編み上げていく。
襟とリボンを整えてドレッサーの前に座った。ヘアブラシを取り上げ、櫛(くしけず)っていく。
その髪は、どんな穢れも知らない新雪の色。
銀の髪のところどころに、
メッシュを入れたように白青(しらあお)色が混ざりあう稀有なる色彩。
ブラシをかけ終えると、さらさらとした髪が踊るように舞った。
ふわりとウェーブを纏っているややクセのある髪をそのままに下ろし、髪の流れを整えていると。