第6章 惑いの往く末 前編
「ふたりとも……! あまり深追いをしてはいけないよ……!」
死神の持つような大鎌を振るいながら、ルカスがその背に声を放つ。
散る汗を振り払うように、その手のなかの刃で、機械仕掛けな彼らを切りつけていく。
キラリと月光を反射し煌めく切っ先に、ぎゅっと胸元にあてた指を握りしめ見守るその姿が映ったのだろう。
ほんの一瞬。ルカスがこちらをみて、仄かに瞳を解く。
その優しい煌めいを宿した琥珀色の瞳に、ほんの少しだけ胸のしこりが弛緩した。
ハラハラと心をさざめかせながら彼らを見守っていると、
ふと自分をみつめる強い視線を感じ、瞳を巡らせる。
「!」
夜の黒曜の中で禍つ闇を切り裂くが如く、浮かび上がるふたつの紅玉。
怒りと憎しみに染め上げられた、爛々と光る瞳が私をみつめていた。
「マリス……?」
戸惑った瞳でみつめ返せば、すぅ………とその瞳が翳る。
色褪せた紅の瞳は彼女の眼から視線を解き、森の闇へと紛れていく。
「待って……!」
気づけば、駆け出していた。踵の高い靴を打ち鳴らし、彼の姿を追いかける。
「お待ちください、主様……!」
後ろ背に放たれた声を無と看做して。