第5章 病魔 後編 *【🫖】
「っあ……!」
刻んだばかりの涙の軌跡をなぞるように舌を這わされ、その感触に肩が震える。
彼はここにいるのに、こうして抱きしめてくれているというのに、
言いようのない恐怖が胸を満たす。
このまま彼が自分を置いて何処かへ消えてしまいそうで、ヴァリスは必死で彼にしがみついた。
「ここに、いて……。
あぁ、……ん、独りにしないで………!」
「私も……ずっとこうしていたいですが……ヴァリス様……クッ………!」
いつも控えめで品行方正な彼が、我を忘れるように淫らに烈しく自分を求めている。
初めて目にする艶めいた眼差しに、みずからも男なのだと知らしめるような、
快楽に歪んだその表情に、温かく滲んだ胸の内。
濡れた瞳で彼を見上げると、重なった唇。
互いの熱い吐息を呑み合いながら、こころに切ない願いがしみ込んでいく。
「ひぅっ……あ、………ぁっ! べりあん、……べりあんっ………!」
好きだと、言ってしまいたかった。
けれど今にも昇りつめそうになる快楽に邪魔をされて、上手く音にできない。
ヴァリスの内は彼自身を貪欲に包んでいた。
烈しい荒波に身を委ね、無我夢中で揺さぶる彼に合わせ、
いつしか彼女も恥骨をすり合わせていた。
ヴァリスの唇からは意味を成さない艶音ばかりが零れ、
ベリアンの熱を感じること以外に何も考えられなかった。
「ああぁっ……!」
細い身体を突き抜けていく快楽に、びくびくと身を震わせる。
同時に最奥に打ち付けていた彼の象徴が膨れ上がり、ドクドクと脈打った。
そのまま彼は自身を引き去り、ヴァリスの腹にどぷりと熱い精を迸らせた。
「クッ……あぁ、ヴァリス様………。」
「んっ……はぁ、………はぁ、」
熱くどろりとした液体が白い肌を伝っていく。
ヴァリスは放心したまま彼に抱きついた。
広い背に指をかけると、彼も荒々しく引き寄せてくる。
互いの身体を密着させながら、どちらからともなく唇を触れあわせた。
「おやすみなさいませ、主様。貴女の瞼に、よき夢が宿りますように」
あの日と同じ言葉、同じ温もりをともなった口付け。
心地良い余韻に包まれて、彼女は微睡みへと沈み込んだ。