第5章 病魔 後編 *【🫖】
(お願い、早く効いて。こんな姿、誰にみせたくないの……!)
みずからを抱きしめるように指をかけ、鎮まれと繰り返し願う。
けれどその祈りは、叩扉の音に上塗られた。
「主様、大丈夫ですか……!?」
声の主はベリアンだった。いつになく焦りが滲んだその声音に、唇を叱咤し応じる。
けれど儘ならない呼吸のなか、半ば強制的に口したその声は熱に侵されたものだった。
「へ、………いきよ」
隠し切れぬ火照りが滲んだそれに、浅ましい自分を呪いたくなる。
胸に手を当てて、呼吸を整えようと深く息を吸った。
「主様……?」
ノブを回しかける音に、「入って来ないで!」と慌てて告げる。
「ごめんなさい、でもいまは一人にしてほしいの」
咽喉につかえそうになる言葉を強いて音とする。
早くいって、………このドアをあけないで。
密やかな願いは、彼の声に潰えた。
「主様、申し訳ありません」
ノブを回す音に、咄嗟にシーツを引き寄せる。
みの虫のようにくるまっていると、突然ばさっ……と奪われた。
「いやっ……みないで、」
顔を隠そうとする腕をつかみ、半ば強制的に引き下ろされる。
途端、はっと吐息を封じる気配がした。
先程までリボンで結われ整えられていた青灰色の髪は乱れ、
くしゃりとウェーブを描きながらその身に流れ落ちている。
頬は紅潮し、青い瞳は涙に潤んで、さらにはその身を染め上げる花びらような紅い斑点。
室内を漂う芳香にも、彼は気づいているだろう。
恥ずかしくていたたまれなくて、ぎゅっと目を瞑った。