【テニスの王子様】Nobody else【仁王雅治】
第1章 ようこそヒーロー【1月】
side.仁王雅治
非現実的な出来事を身を以て体験しただけで驚きもんだ。
そんな驚きもんの経験をしたミラクルな俺に、これまた偶然にも似た奇跡が重なる事態。
今思えば、あれは“運命”としか言いようがない出来事だった。
―Nobody else―
偶然や奇跡が日常にごろごろ転がっていたら、人類皆坂本龍馬になれる。
運命なんて言葉は、俺の辞書には載っていない。
俺が女を好きになるわけがない。
泣くわけがない。
ましてや“異世界の女”に愛情なんて持つわけがない。
本気でそう思っていたんだ。
しかし、君と出会ってその考えは覆された。
今はそんな思いを抱いていた自分を酷く滑稽に思う。
あの冬、彼女と出会ったのは運命だったんだ。
「約束通り俺は強くなっちゃる。じゃけぇ、ちゃんと見とってな」
春風に乗ってかきけされるこの声が、君に届くことはない。
いつも俺の隣にいた君。
その君が、もう俺の隣には存在しないからだ。