第38章 追憶*
「…名前…」
私の名前を呼ぶ悟さん。
思い出してくれたの?
私の事を。
私と過ごした日々を。
「…悟…さん…」
私はしがみついて、ボロボロと涙を零した。
本当はすごく不安だったの。
昨日、たった1日だけ。
悟さんのいない夜を過ごした。
それだけで孤独だったの。
もう二度と会えないじゃないかって。
不安で仕方がなかったの。
獄門疆からでてきても、私のことを忘れちゃってて。
もう私を思い出さないんじゃないかって。
怖くて怖くて仕方がなかったの。
胸が押しつぶされそうな程の恐怖を感じていた。
「思い出すのに手こずって、ごめん」
「そんなのいいの…。それよりもう一度。私の名前を呼んで?」
「名前」
「…もう一度…」
「名前。好きだよ」
「うん」
「名前。愛してる」
「うん」
その言葉が聞きたかったの。
私を縛る愛の言葉。
悟さんは私の涙をぺロリと舐めた。
「君は本当に泣き虫だね」
「泣かせてるのは悟さんでしょ」
悟さんは私を抱きめて、沢山キスをしてくれる。
こうしてキスして、抱きしめて欲しかったの。
悟さんがいなければ。
息の仕方も忘れそうになるの。
失いそうになって、初めて気づく。
貴方は既に私の人生の一部だって。