第38章 追憶*
ここは私と悟さんが初めて交わったリゾートホテル。
「すみません。このような身なりで申し訳ないのですが。127号室は空いてますか?」
「はい。本日は空室でございます」
「2名で宿泊をお願い致します」
「畏まりました」
空室で良かった。
フロントでカードキーを受け取って。
私達は客室へ向かう。
部屋に着いて、バタンとドアを閉める。
「悟さん。とりあえずバスルームに行こう」
「えっ?」
浴室にお湯を張りながら、身体の冷え切ってる悟さんに。
頭からお湯をかけた。
彼の濡れた服を一つ一つ丁寧に脱がして。
浴槽に溜めたお湯で、簡易洗いをする。
水分を絞って、室内乾燥の物干し竿に掛けた。
失ったものが大き過ぎて。
心の中は激しい感情が渦巻いている。
それでも私の行動は酷く冷静だった。
「ねえ?君。名前は?」
「思い出すまで教えたくない」
「じゃあヒント!ヒントは?」
「…左手の薬指…」
「えっ?」
悟さんは驚いた声をあげる。
「これ結婚指輪だよね?君とペア?もしかして付き合ってるの?それとも結婚した?」
「………私も服抜ぐから。あっち向いてて」
悟さんの質問には一切答えない。
私を愛しているなら、自力で思いだしてよ。
この冷めきった身体を。
悟さんの温もりで抱きしめて。