第4章 幸福な最終日
「お前、具合悪いなら医者に行けよ。」
「大丈夫。少し疲れが溜まっただけさ。
それに、今週いっぱいでしょう?
この生活。どうせなら最後までやろうよ。
中途半端は気持ちが悪い。」
「…別に、体調が戻ったらもう一度やり直しても」
「駄目。」
強く否定された言葉に、
林檎を剥いていた手が止まった。
見れば、
うさぎの形にしたそれに楊枝をさしながら、
真琴が唇を引き結んでいて。
何故だかは分からないけれど
「どうして」
とは聞けなかった。
いや、それは、聞いてはいけないのだと、
俺は直観的に悟っていた。
「…お前がそう言うなら、良いが。
少しは体を大事にしろよ。心配だ。」
「ふふ、それは本音?
それとも、旦那様役としての言葉?」
「うるせェ。さっさと食っちまえ。」
からかうように笑う真琴の頭を小突いて、
素早く身を翻す。
なんだか、
これ以上この話をしていたら、
言わなくても良いような事を言ってしまいそうで。
そして、あいつに、
つかなくても良い嘘をつかせてしまうような。
そんな、気がしたのだ。