第3章 仮初の夫婦生活
安堵で脱力した体を
引っ張り上げるようにして立ち上がった俺を、
真琴が眩しそうな顔で見た。
それが、
なんだかとても嬉しそうで。
どうかしたのかと聞く前に、
真琴が寝返りをうってクッションを抱えた。
「君は、あんな顔をするのだね。」
「は?」
「いやぁ、うふふ。
生きているうちに確認できるなんて、
私は心底ついているなと思っただけさ。」
「…何言ってんだ?」
「いいの。流してよ。
今とても私は幸せなんだ。」
そう言って顔を伏せた真琴の耳が、
確かに少し赤かったから。
どこに照れる要素があるのかと首をひねりながらも、
俺はその会話を終わらせてキッチンに向かった。
今なら分かる。
「君は」と「あんな顔をするんだね」の間に入る言葉を。
耳が少し赤かった理由は、
照れていたからではない事を。
今なら、分かるのに。
そして、
その次の日から、
真琴はベッドからほぼ起き上がれなくなった。