第15章 青の日々 (及川徹)
俯いたままいる私の代わりに及川が言葉を続ける。
「バスケ部のキャプテンさんもちゃんに告白するまでは話したことなかったみたいですけどね。」
「そんなの分かんないじゃん!」
そう、分からない。
誰も見ていないから私にしか分からないことをどう説明したってこの人たちが信じるに値しない。
「分かります。ちゃんのことずっと見てきたので。男の影なんてあろうもんなら俺が片っ端から潰してます。」
間髪入れずに答える及川にトクン、と自分の中のなにかが跳ねた。俺のちゃんなんだからねって色んな人に圧をかけてたのを思い出す。キャプテンさんからの告白にだって割って入って来るような人だから。
でも及川が分かっててくれればそれでいい。
大切な人達が私を理解してくれてるだけで十分。
「及川くん…この子と付き合ってるの?」
「まだ…です。俺の片想いなので。」
唇を噛み締めて眉を下げる及川に胸が締め付けられる。こんな顔させたくて断ってるんじゃないのに…。
「思わせぶりされてるだけじゃない?たくさんいるキープのうちの1人かもしれないよ?いいの??」
心の無い言葉にすらズキリと痛む心。
思わせぶりなんて…してるつもりは無いけど心を私に縛っている自覚はある。及川の気持ちが離れていくのは嫌だ。わがままだって分かってる。
「思わせぶりしてほしいくらいですけどね。もう何回もフラれてますから。それでも好きでいさせてってお願いしてるのは俺の方なので。」
この人はなんでこんなにも優しいんだろうか。好きでい続けてくれてる及川を私は縛り付けて傷つけてるだけなんじゃないの…?
「少し顔が可愛いだけでしょこの子…」
小さく呟かれたその言葉に反応したのは及川。
「…っ二度とちゃんに近づくな。」
目の前にいるその子たちを見下ろして目を細める及川は初めて見る表情をしている。怖い、と思った。
「でも及川くん…っ」
「次俺の好きな人を傷つけたら許さないですから。」
「な、なんなの…っ」
私に舌打ちを打って人混みへ消えていくその人たちに結局何も言えなかった。ただ及川に迷惑をかけただけ。まだ震えてる自分に心底嫌気がさす。関係の無い人に迷惑をかけて当の自分は何も言えないなんて、こんなに申し訳ないことはない。