第15章 青の日々 (及川徹)
合宿最終日の夜、いつもより少し早く彼女の休む部屋に着いた。毎回どうやって入っていいのか分からず控えめにノックをして部屋の中を伺う。
『及川?どうぞ』
机に向かってノートに何かを記入しているところだった。後ろからそっと覗くと俺たちの記録ノートだったみたいで綺麗な字で細かく書き込まれていた。
「ごめん少し早かった、よね」
『ううん。いつも疲れてるのにごめんね。』
「だーかーら!疲れてるからこそ会いたいんだって!」
『及川は優しいねえ』
「ちゃん限定だよ!分かってる!?」
『そう?及川はみんなに優しいよ』
ノートに落ちたままいた目線がゆっくりと上がって俺を視界に映した。
「俺、ほんとにちゃんだけだよ」
『うん、知ってる』
「大好きだよ」
『知ってる』
「この5日間、夢みたいだった。」
『うん』
「ちゃんがマネージャーだなんて何度夢見たか分からなかったから。体は辛いはずなのに楽しくて、かっこいいとこ見せたくて。少しは惚れてくれたり…しないかなって。」
本音が口から溢れてくる。
俺がこの5日間どんな気持ちで頑張ってたか知って欲しくて、あわよくばかっこいいとか思ってくれたりしてないかなって。欲ばっか出ちゃう。
『…ずっと立ってないで座りなよ。』
「あ、うん…っ」
再びノートに視線を戻した彼女はすらすらとペンを走らせている。ひとりひとりの名前、朝ランのタイム、その日調子の良かったゲーム、特によく決まったサーブの本数、こんなに細かく…マネージャーが初めてだなんて思えないほどに記録してくれてる。
『私もこれ書いたら終わりだから。』
「それ、毎日書いてくれてたの?」
『え?あーうん。5日間だけだけど私なりに何か残せたらと思って。バレーの知識なんかない素人のメモなんて役に立たないかもしれないけどね。』
「そんなことない。客観視ってひたすらビデオ見るくらいだから文字に起こしてくれるってすごく助かる。」
『それなら良かった。…よし、終わり。』
ノートを閉じた彼女がベッドに腰掛けて、俺はその向かいでパイプ椅子に腰を下ろした。今日で最後かぁ…寂しいなあ。