第15章 青の日々 (及川徹)
コンコン
控えめにノックされた部屋のドア。
『及川?どーぞ』
「お疲れ様、今日もありがと。
これ良かったら」
『いいのに…ありがと。』
体育館横にある自販機で買ってきてくれたであろうペットボトルのお茶を受け取って彼を部屋に入れる。
「なんかあった?」
『ん?』
「上の空だったよ今日。悩み事?」
『ううん、大したことじゃないよ』
一緒に大人になれないだなんて及川には言えない。
きっと酷く取り乱すだろうから。
「俺じゃ頼りない?」
『そうじゃないよ。ほんとになんでもないの。ごめんね、明日からちゃんとするから。』
「ううん、もし話したくなったら話してね。俺は何があってもちゃんの味方だから。」
真っ直ぐ射抜くように見つめられると全部見透かされてるんじゃないかとさえ思う。及川に話せたら少しはラクになるのかな。
泣きたいくらいに怖くなる夜がある。
1人で真っ暗な天井を見つめていると吸い込まれそうで、もう二度と目が覚めないんじゃないかと眠るのが怖くなる。
『及川』
「なあに?」
『手…昨日みたいに握っててほしい』
「もちろんいいよ。喜んで。でも岩ちゃんには頼んじゃダメだよ。他の男もダメ。俺にしか頼んだらダメ!」
『分かったよ笑』
「笑った!かぁわいい〜っ」
剥き出しの感情。好意。
何度及川にドキドキさせられたか分からないよ。
こんな感情初めてで、でも分かる。
きっと私は及川に惹かれてる。
もうずっと前から。
中学生のときに及川が下級生の女の子からプレゼントを受け取っていて、それを見てチクリと胸が傷んだことがあった。あぁ好きになっちゃったなって思った。こんなに冷たくあしらっておいて結局惹かれてるなんて。
毎日溶けるほどの愛をくれるけど
変わらず好きでいてくれる保証はない。
私が病気だって知ったらきっと幻滅する。
将来を約束できない恋人なんていらないだろうから。それなら初めから手を取らない方がいい。
失う辛さを知ってる。
及川にあんな想いはさせたくない。
だから私は自分の気持ちに蓋をする。