第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
背中越しにまた1歩距離を詰められたのが分かる。
「その子が来てから角名変だよ…っ」
「なにが」
「ジャージなんて誰にも貸したことなかったじゃん。私が冬にジャージ忘れて外体育だった日も貸してくれなかったじゃない…っ」
「そうだっけ、覚えてない」
1年の時同じクラスだっただけ。この子達はいつも3人でいて…ていうか1人が2人を引き連れて?みたいな構図。ちゃんにケチ付けてんのもボス猿みたいな女だけ。あとの2人は援護みたいな。正直しょうもない。やたら話しかけて来るとは思ってたけど俺は別に仲が良かったわけでもないから勝手なイメージしか知らない。苦手なタイプではある。
「この子ばっかり…朝も部活も放課後も…」
「部活は一緒なんだからそりゃ一緒にいるでしょ。」
「朝見かけてもこの子がいるから話しかけずらいし!」
「なんでちゃんが悪いみたいな言い方すんの?俺が一緒にいたくて頼んで朝一緒に来てんだよ。あんたの言ってた誰にもジャージ貸さなかった俺がちゃんには着てほしいって頼んでんの。意味わかるよね?」
「……っ転校してきてそんな日経ってないじゃん。なんでその子なの…っ!」
「あんたには言いたくない。もういい?」
涙を浮かべて なんで と繰り返すのを見ても驚くほどに心は動かない。何も感じない。やっぱり俺はちゃんにしか揺さぶられないんだと再確認する。
「んあ?角名?どないしたん」
「侑くんっあの子が角名くんにべったりで…っ」
今度は侑にいくのね。女って怖…。
「あの子って…あ!角名ぁ!またちゃんとおるんか!そんな隠さんでもええやろ!角名のだけちゃうねんぞ!」
俺の背に隠れたちゃんを見つけてぎゃんぎゃん吠える侑。ズカズカ近づいてきてジャージの名前を凝視する。
「可哀想やなほんまにずっと着せられてぇ…そのうち目あかんくなるかもしらんでほんまぁ」
「誰が目細いだよ怒るよ。それにちゃんのきゅるきゅるおめめは俺のジャージ着たって変わんないから…!」
とんだ雰囲気クラッシャーが来たけど救われた、かも。