第3章 初恋 (佐野万次郎)
『ねー万次郎くん
今日の夜ご飯何がいい?』
「えーっと…オム」
『オムライスはなしね!』
夕飯の買い出しに2人でスーパーに来てるとこ。
オムライスって言いかけた俺の言葉が遮られた。
「…はい。」
『先週も昨日の夜もオムライスだったよ?
だから今日は違うものにしようね』
「…はい。」
『んー、よしよし!
好きなお菓子1つまでなら買ってあげる』
「まじ!たい焼きがいい!
さっき外にあった屋台のやつ!」
『おおいいね!エマたちにも買って帰ろ!』
結局今日の夕飯は手巻き寿司に決まって
好きなネタをカゴに入れていく。
『おっけい、あとはたい焼きねー』
「ん、俺持つよ
そのためについてきたし」
『きゃー万次郎くんかっこいい!
たのもしー!たすかるーう!
たい焼き2個買ってあげちゃーう!』
「…ん。2個な言ったからな」
こんな冗談めいた言葉にすら心臓が跳ねる。
そう、今一緒に買い物に来ているコイツが
俺の初恋相手
もうずっとずっと前から好きで…いつからかなんて
考えたことも無いくらいずっと好き。
年は俺より5つ上で20歳。年の差とか関係ねえ。
訳あって3年前から一緒に住んでる。
コイツの両親が仕事でパリに長期出張中。
お母さんが元モデルで現デザイナー。
お父さんはカメラマン。
本人は東京に残ってスタイリストを目指してる
わざわざ一人暮らしなんて金かかるし
高校中退させんのも可哀想だし
俺たちは小さい時からずっと一緒だったし
俺のじいちゃんとコイツのじいちゃんが
古くからの友達ってこともあって
しばらくは俺の家に住むことになった。
昔からコイツのことを姉のように慕ってたエマは大喜びで毎日どんちゃんさわぎ。一緒にショッピングにいけばセンスのいい服を選んでもらったって嬉しそうに帰ってくる。
『じゃー、帰ろうか
結局たい焼きたくさん買っちゃったね
お刺身もすごい沢山だね…
どうしよーか、賢くんたち呼ぶ?』
「あー…ケンちん暇だと思うし呼ぶか
三ツ谷と場地にも連絡しておくよ」
『おーいいねえ!頼むー!』
いつもみたいに他愛のない会話をしながら
俺たちは2人並んで家までの道を歩いた。