第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
『そういう感じだから…その。飲み物もらってくるね。』
「なんかあったら…すぐ言って。」
『うん、ありがとうね』
「…俺練習戻るから、赤葦のことよろしくな」
「あ、はい」
体育館から出ていく俺とさんを見つけるやいなや、直ぐに駆けつけてきた音駒のミドルブロッカー。たしか黒尾さん。木兎さんと仲が良さそうだったから覚えている。
誰もいない食堂。
彼女を座らせて適当に飲み物を持っていく。
「水とお茶どっちがいいですか?」
『じゃあ…お茶貰おうかな』
「冷えてるのと常温のどっちにします?」
『んー、冷えてる方で』
「どうぞ」
『ありがとう赤葦くん』
「いえ、大変でしたね。」
『赤葦くんが来てくれなかったら…どうなってたかな。ほんとに助かりました…ありがとう。』
彼女の隣に腰を下ろして一緒にお茶を飲む。他校の人、しかもマネージャーと2人きりになるなんて思ってなかったな。
「彼氏がいるんですから、そう言って断れば良かったのにどうして言わなかったんですか?」
『彼氏?…朝も言ったと思うけどほんとにいないよ。』
「黒尾さんは彼氏じゃないんですか?部内恋愛禁止とかなら別に俺は黙っておきますけど…。」
『鉄朗は彼氏じゃないよ。ほんとに違うの。』
彼氏でもない人があんなに慌てて…練習を抜けてまで1人女の子の元へ来るものなのだろうか。彼女なんて存在はいたことがないし、恋をしたことの無い俺には分からないけど。
だけど黒尾さんを彼氏ではないと否定する彼女の表情はどこか寂しそうだった。あの人はきっとあなたのことが好きなのに…どうしてそんな顔をするんですか?
――――
「だってお前ドンピシャだろ!?」
――――
今朝の木兎さんとの会話。なんで今思い出すんだ。…たしかに初めて彼女を見たとき綺麗な人だと思った。ひとつにまとめられた長い黒髪と透き通るような白い肌。長いまつ毛に大きな瞳。それでいて人当たりのいい笑顔も話し方も…多分この人は人を惹く魅力のある人だ。
現に出会って数時間の選手から告白されていたくらいだし。