第12章 伝えたいことは (黒尾鉄朗)
紅白戦。ギャラリーにいる女の子たちの黄色い声援が絶え間なく降り注ぐ。
「クロのファンの人達どうにかして。すごく気が散るんだけど。」
不機嫌な研磨くん。セッターは指先まで神経を注ぐコート上の司令塔みたいなもの。そりゃあ気が散るよね。
ヒソヒソと話し声も聞こえる。
中学生の頃から何度もあったこと。
それでも慣れない…苦しい。
「あの子ってマネージャーでもないのになんなの?どうせ黒尾くん狙いでしょ?それか孤爪くんとか?」
鉄朗が人気なのは分かってる…研磨くんだってファンがいるくらい人気。
ふとコートに視線を戻すと…あ、あれ…鉄朗が、いない…?
目の前のコートで紅白戦をしていたはずの鉄朗がいない。だけど1人欠けたまま試合は続いている。
「あのー、も少し静かにしてもらえると…」
ギャラリーから聞こえてきた声に視線をあげると女の子たちに囲まれるようにして鉄朗が立っている。
「ねえ黒尾くんあの子なんなの?去年の夏もいたよね?はっきり言って目障りなんだけど。」
いつも見に来てる3年生の人だ…
下にいる私を睨みつけて指をさす。
鉄朗の目が変わった…ように見えた。
「…アイツは俺たちが頼んでマネ業やってもらってるんでアイツのこと責めるのは違くないっすか?それに先輩方の声の方がよっぽど耳障りなんすけど。」
「は!?私たちは良かれと思って応援を…っ」
「なら俺たちにとって部活の時間がどれだけ大切か分かりますよね?気散るようなことしないでください」
「そんな言い方… 「あと、のこと悪く言うやつは許さねえから」
会話が進むにつれ先輩の表情が歪む。よくは聞こえないけど注意しに行ったみたいだし…きっとあの人たちも良い気はしないよね。
戻ってきた鉄朗は何事も無かったかのように再びコートに立つ。さっきより随分静かになったギャラリーに、鉄朗に注意されていた先輩方の姿はなかった。