第3章 初恋 (佐野万次郎)
「…俺はいつでも待ってるからね」
そう言って立ち上がった万次郎くんが触れるだけの優しいキスをおとして自分の部屋に行ってしまった。絶頂の手前で焦らされたままの体が熱い。もっとシてほしかったなんて考えてる私がいる。
すごく…すごく気持ちよかった。
欲しいって言えばもっとシてくれた…?
ううん…だめ。私は真ちゃんの彼女。
バレても疑われてもダメ。
あんなに真っ直ぐ愛してくれているのに
私はなんてことしてるの…?
作り途中だったグラタンを焼いて
万次郎くんを部屋まで呼びいく。
コンコン
「どーぞ」
ガチャリとドアを開けて顔を覗かせてみる。
『あの、グラタン焼けたから食べよ?』
「うんっ」
早く食べたいって部屋から飛び出してきて私の手を引く万次郎くんに少しだけ…ほんの少しだけ意識してしまうのはなんで。いつまでも子供だと、弟みたいに可愛がってきた万次郎くんが、知らないうちに男の人になってたから?綺麗な顔立ちに見つめられたら吸い込まれそうになる。
2人で席に着いてグラタンを食べて、洗い物は俺がするって万次郎くんがやってくれて、私もお風呂に入って、ソファに座ってアイスを食べながらテレビを見る。いつものルーティン。
「今日もご飯美味かったよ!」
『嬉しいありがとう』
「俺、夕飯後のこの時間好きなんだあ
のんびりアイス食べながらテレビ見てさ」
『私も好き!』
一緒だねって笑いあって
なんだいつも通りじゃん。
気にしなければいいんだよ。
それからエマが帰ってきて賢くんとの話をたくさん聞いて、私たちはそれぞれ眠りについた。焦らされて疼いている体を無視して目を閉じた。
これ以上近づいたら戻れなくなる。
戻れなくていいと思ってしまう気がする。
だけど真ちゃんが好きだから。
万次郎くんの気が済むまで…。
私はただ過ぎるのを待つだけ。
なのに少しずつ戻れなくなっていくことに
私はまだ気づかない。
to be continue…