C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第7章 満月の夜
触れるだけの、優しいキスだった。ランギルスは帰ろうか、と小さな声で言った。振り返って、歩き始めた。まだ触れていたい、まだいっしょにいたい、まだ離れたくない────……わたしは気づいたら、ランギルスの手を握っていた。ランギルスは足を止め、わたしの方に振り向いた。
「ま、待って……あのっ……わたし……まだ帰りたくない、まだランギルスといっしょに、いたい……」
ランギルスと目が合った途端に、恥ずかしくなってしまった。
「はぁ……、まったく君は……どうなっても知らないからね……」
「わたしは……どうなってもいいよ?ランギルスに、なら」
ランギルスは懐中時計を出し、時間を確認した。もうすぐ日付が変わる、と言った。真夜中なのに、満月だけがずっと、わたしたちを照らしていた。
「……王都の宿に行こうか」
ランギルスはそう言って、砂浜で空間を出した。ランギルスの空間に入ると、そこは宿ではなかった────……
────そこは、見覚えのある駅だった。
ここは、確かに記憶にある。トリップしたあの日、電車に乗り込んだ駅だった。一体、何が起きているのだろうか。ランギルスも驚いた表情をしていた。
「ここはどこだ……?まずいぞ、魔が弱まっている……すぐ、僕の空間に入ってくれ」
「う、うん」
ランギルスの出した空間にもう一度入ると、わたしたちはラクエの海岸に戻っていた。
「……なんなんだ、今のは」
「……」
あの場所は間違いなく、わたしが住んでいる現実世界だった。なぜ、唐突にランギルスの空間が現実世界に繋がったのだろうか。思考が追いつかない。
「ランギルス……、あの……信じられないかもしれないけど……さっきの場所はわたしの住んでいた、現実世界だった」
「は……?僕の空間が現実世界と繋がった……?そんなことがありえるのか?確かに、さっきの謎の場所で魔が弱まった。1分もすれば、魔力が出なくなって、この世界に戻ってこれなくなる可能性もあった」
「そ、そんな……どうなってるの?」
もう一度、ランギルスの出した空間に入ると、そこは王都の宿だった。
「さっきのは、一体、何が起きたんだ……僕は一度も行ったことのない場所に、空間魔法は使えない。なのに、君の住む世界に繋がった、なんてどうなってるんだ……」