C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第4章 仕事のち恋
わたしはなぜか、彼のことを忘れられなかった。もう二度と、会えないかもしれないと思っていたが、こうして会うことできてうれしかった。だが、彼の態度は無愛想だった。彼にとってわたしは、通りすがりの女のひとりにすぎなかったんだ、と思った。
「あ、あの……わたし……、もう一度、あなたに会ってみたくて……」
「は……?君は一体、何を言っているんだ?」
「わたしもわからないんですけど……、あなたのこと、もっと知りたいなって、思って……」
「僕の、何を、だい?魔法騎士団のことかい?それとも、僕の家柄のことかい?どいつもこいつも、そればっかりだね……」
「……そんなことに、興味ありません。わたしはあなたと、もっと話したい、ただそれだけでここに来て……また会えて、うれしいんです」
彼は驚いた表情で、わたしの方を見た。やっと、目を合わせてくれた。
「君はおかしな女だね……」
彼はそう言って、ふっと笑った。
「家柄とか、魔法騎士団のことも、わたしはまだよくわからないですけど、そんなことはどうでもよくて……飲んでるときって何かを忘れたいとき、ですよね。わたしも、そうでした……だから、楽しく飲めたら、それでいい、そう思います」
「仕方ないね……君がそんなに言うなら、いっしょに飲んであげなくもない、ね」
彼がそう言ってくれたので、隣に座った。距離が近くて、なんだか緊張してしまい、言葉が出てこない。知りたいことがたくさんあるのに。名前も、年も、知らない。ひとつ、ひとつ、聞いていこう、と思った。
「……あの、何歳なんですか?名前も、」
「20歳だよ、僕はランギルス・ヴォード、だ」
「わたしはミライ、22歳でランギルスより年上だから、敬語使うのやめるね?」
「生意気な女だね……」
ランギルス、という名の彼は、ひねくれていて皮肉っぽい。でも、きっと何かを抱えて、ここにひとりで飲んでいるんだ、と思った。なぜか、彼に不思議な魅力を感じて、引き込まれていく。もしも、ひとりで苦しんでいるのなら、少しでも忘れられる時間であってほしい、と思った。
「また、来てもいいかな……?」
「……好きにしなよ」
じゃあ、また、お互いに交わしたその言葉だけがわたしたちの約束だった。バーを後にして、バネッサの元へと向かった。