C-LOVE-R【ブラッククローバー / R18】
第27章 雨の夜
本当に不思議だった。出会ったばかりだというのに、彼に心を奪われてしまった。女の人といるのを見たとき、胸が痛くて仕方がなくて。こんな気持ちになるのも彼だから。彼の隣は居心地がよくて、懐かしくて────……
でもたった今、そう思っていたわけを全て理解した。
居心地がいいのも懐かしいのも、もっと会いたいと思うのも当たり前の感情だったのだ。彼とわたしはあの頃から変わらず、愛し合っていたのだから。
わたしは震える手で胸元のネックレスをぎゅっと握りしめた。涙が目尻から溢れて、わたしを抱きしめる彼の肩を濡らした。
「ラン……ギルス……」
愛しいその名を呼ぶと、ランギルスはわたしを解放し、目線を下げた。澄んだ青い瞳が丸く見開かれている。唇は震えて、何か言おうとしているのか小さく開いたり閉じたり。しかしそれらが鮮明に映ったのは一瞬で、止めどなく涙が溢れてわたしの視界は滲んでいった。
頬に触れる両手。温かくて優しい掌が冷たくなった濡れた頬を包み込んだ。微かに震えるそこからは、溢れる想いがひしひしと伝わってくる。
「ミライ……」
ランギルスは小さな声でわたしの名前を呼んだ。その瞬間に唇が重なった。身体を包み込むように抱きしめられる。ゆらゆらと泳ぐクラゲも、水族館の水音もどこか現実味がない。まるで異世界に迷い込んだかのように。
もう一度、唇を重ねて。抱き合って。互いの存在を想いを確かめ合う。わたしたちに言葉など必要なかった。ただ触れ合って、体温を重ねるだけで十分だった。
どのくらいそうしていただろうか。水族館の閉館の音楽が流れてきたところで、ランギルスはわたしを解放した。目を開けて、最初に見たのはどこか照れ臭そうなランギルスだった。
「……閉館の時間みたいだから、そろそろ行こうか」
ランギルスは目を逸らしながらそう言って、わたしの手を引いた。ふたりで出口へ向かう。ランギルスがこの世界にいること。突然記憶を取り戻したこと。まだ現実味がなかった。信じられないくらいにうれしくて。
車に乗って地上へと出ると、一層雨が強くなっていた。
「本当に逢えた……夢じゃ、ないんだよね……?ここいつもの池袋だし……またトリップしたってわけじゃ……」
わたしがそう言って窓越しに街を見ていると、隣でランギルスがくくっと喉を鳴らした。