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往古来今

第6章 「負けられないこと」/源頼朝


義経が由乃に気持ちを寄せていることは、
平泉から休戦を受け、
他国や朝廷へこの休戦が本物のことであると思わせるために、
平泉へ訪問した時に気付いたことだった。

敵側の大将である相手に薬師として怪我人を放って置けず、
自分の矜恃を曲げずに義経に治療を施した由乃の姿勢は俺も認めているところではあるが、
まさかこんなことになろうとは思いもしなかった。
だがそれと同時に惹かれるのも無理はないと納得してしまう自分もいた。

誰に対しても甘い程に優しく、
どれだけ自分が傷付こうと決して相手を傷付けることはせず、
薬師として誰よりも高い信念を掲げ、
ただ自分の信じる道だけを真っ直ぐに進む由乃の姿は俺にとっても眩しいと感じる。
そんな姿に惹かれるのは分かる。
それは俺自身がそうであるからだ。

義経が幕府へ休戦申し出ることを決定した根本的な要因も由乃との会話だった。
それだけ由乃が人を動かす力を持っているということ。
それも悪い方向へではなく良い方向へ。
まぁ義経個人にとっては悪い方向かもしれないが。

だからといって、
もう手放せないほどに自分の中に大きく、
深く根強く存在する由乃を義経に譲るわけにもいかない。
義経自身も無自覚だし、
当の由乃本人も義経の気持ちには気付いてないが、
それでも俺が唯一、
心の底から『愛しい』と感じた女を今更手放してやるつもりはない。

こんなことで刀を向け合う戦とは違う意味で、
弟と戦う羽目になるとはこれこそ予想外だが。


【the end】
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