第5章 再会。
ミーンミーンミーン
夏も本番を迎え、蝉の鳴き声があちこちから聞こえる。
かよこ「こっちも暑いわねぇ、はぁ。溶けそう。。」
木々が生い茂り日陰があるとはいえ、東京も暑い。
私は仏花を生け水を注ぐ。
この時期だとすぐに枯れちゃうだろうな…
そんな事を考えながらお線香を取り出し火を用意する。
かよこさんはハンカチを取り出し、額の汗を拭いながら墓の前にしゃがみこむと、
かよこ「ともみも高校生になったわよ。」
かよこさんはじっと墓石を見つめている。
かよこ「この子は立派に育ってる。お陰で子供が居ない私にも楽しみが出来たわ。あんたの代わりに、私が一生この子を見守っていくから。」
「・・・かよこさん。」
灰がパラパラと落ちていくお線香の束を差し出すと、ありがとう。といつもの笑顔で受け取った。
私達はお線香を供え、そっと目を閉じ手を合わせた。
目を開けると隣でかよこさんがこちらを見ていた。
かよこ「ともみは近況報告したの?」
「えーっと。まぁ…。」
かよこ「そんなしょっちゅう来れないんだから近況報告ぐらいしないと。最近賑やかな友達が出来た、とか。」
「・・・侑君と治君?」
かよこ「フフッ時々連絡取り合ってるんでしょ?」
「治君と少し…。」
何やら楽しそうに笑うかよこさんから視線を外し、立ち上がった。
かよこさんも立ち上がり隣に並びポンっと背中を叩いた。
かよこ「これから楽しみね!高校生活。ともみは自分で思ってるよりずっと魅力的なんだから。もっと自信持って!ほらっ、下向かないで背中も丸めない‼︎」
「・・はい。」
私は丸めた背筋を伸ばし、かよこさんに視線を向ける。
かよこ「これから恋をして失恋して。将来の事とか色々な悩みが出てくると思うけど、私がずっと側にいるから。ずっと見守ってるからね。」
母とよく似た顔で優しく微笑むかよこさん。
本当は母にこんな優しい笑顔で、こんな温かい言葉を掛けて欲しかった…。
当の昔に諦めた想いがふっと湧き出てきた。
私は母が死んだ時も、死んだ後も泣けなかった。
"悲しい"という感情も湧かなかったし、ただぼんやりと冷たくなった母を眺めていただけ。
そんな私は周りから白い目で見られた。