第32章 侑end
笑顔で会釈し、日向さんと木兎さんに別れを告げ、寮を出た。
駅までそう遠くないし、歩こうかな…。
そう思い、キャリーケースを握り、鞄を肩に掛けた時、数メートル先で一台のタクシーが停まった。
タクシーから降りてきた人物はヒールを鳴らし、こちらに向かって歩いてくる。
サングラスを掛け、黒い髪を靡かせて颯爽と歩く姿はまるでモデルさんのようだ。
いや、本物のモデルさんなのでは…?
近づくにつれ、スタイルの良さと顔の小ささに思わず見惚れていると、
「・・・あなた、ムスビィの人?」
目の前まで来たその人は、私の胸元を指差して言った。
「い、いえ、、私は…」
名乗ろうとした所でふと指を差された胸元に視線を落とした。
「あっ、パスケース…‼︎」
入館の際に日向さんから渡されたパスケースを返却するのをすっかり忘れてしまっていた。
しまった…、と固まっていると、そのモデル風の美女がじーっと上から下まで私の全身をじろじろと見ていた。
「あの、怪しい者ではないですっ!
これ、返却してきます。」
慌ててパスケースを首から外し、苦笑いを浮かべながら女性にお辞儀をし、踵を返した。
「ねぇ、ちょっと待って?」
サングラスを外した女性がにっこり、と口に弧を描いた。
「・・・?」