第1章 灰色の空。
電車に揺られぼんやりと流れる景色を眺めた。
灰色の寒空はまるで私の心を表しているようだ。
ずり落ちたメガネから見る景色はとっくの昔から色を失っていた。
母との最後の会話を思い出そうとしてもそれがいつだったか、どんな会話だったか、、
思い出せない。
母は肝臓癌で亡くなった。
最期は痩せ細り痛々しい姿だった。
両親は私が5歳の頃、父の度重なる浮気が原因で離婚している。
当時、母は憔悴しきっていたが、私が小学校に通い始めた頃になると寂しさを紛らわすように夜の仕事を始めた。
それから母はすっかり別人のように変わっていった。
毎日香水と酒とタバコが交じった匂いをさせ、明け方にフラフラと帰って来たり、時には知らない男の人を連れて帰ってくる事もあった。
そんな生活がしばらく続き、母は家に帰って来ない日が増えてきた。
たまに帰って来ては私の生存を確認し、生活費を置いて出て行く。
そんな家庭環境で育った私に、学校では誰も寄り付かなくなった。
ほぼ毎日同じ服を着て、長く伸びきったボサボサの黒い髪の毛は気味が悪く、分厚いレンズの眼鏡を掛けた私は男子からは虐めの対象でしかない。
暴言を浴びせられ、時には何人かで殴られた事もあった。
家でも学校でも1人になった私は、その頃から感情が無くなっていった。
笑う事も無ければ泣く事もない。
無表情で薄気味悪い、と近所のおばさんにはよく嫌な顔をされていた。
そんな生活の中で唯一、私の楽しみはゲームだった。
時間を忘れて没頭出来るし、母が男の人を連れて帰って来た時はその場を逃げるようにゲーム片手に近くの公園へ行ってゲームをしていた。
公園のベンチに背中を丸めて座り日が暮れるまでゲームをする。
そんなある日、同じぐらいの歳の男の子に声を掛けられた。
「あんたいつもゲームしてるけど、、何してんの?」
それが研磨との出会いだった。