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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第11章 永劫の花



開花の瞬間を見逃さぬよう、早めに夕餉と湯浴みを済ませた二人は月下美人がゆっくりと綻ぶのを待つ傍ら、小さな酒宴を縁側で開いた。

「明かりを寄せて正解でしたね。この方がよく見えます」
「今宵は月明かりも殊の外明るい。開花の様を見るにはうってつけの夜になるだろう」

縁側の張り出しへ腰を落ち着けている光秀の、胡座の間へ横向きの体勢で身を預けていた凪が、顔を見上げて来た。明かりが灯る行灯を鉢植えの傍へと寄せたお陰で、暗い闇の中でも月下美人が視認出来る。それに加え、まるで誂え向きのように綺麗な円の形を保った月が、雲に邪魔される事なく月明かりを注いでいた。傍らに置いた膳の上の酒器から匂い立つ香りに混ざり、正面の花からも上品な甘い香りが漂って来ている。

「……あ、光秀さん見てください」

軽く盃を傾けながら談笑して一刻程。凪が手にしていた酒器を膳へ戻しながら、光秀の白い着流しを軽く引く。じっくりと刻をかけて綻んでいた月下美人の蕾は今や完全に花の形をしており、特徴的な真白い花弁が少しずつその全貌を露わにしようとしていた。花の中央にある特徴的な雌しべと雄しべの姿が見え、がく弁と花柄(かへい)と呼ばれる花の根元付近にある細い花弁がだいぶ大きく開いて来ている。

「わあ……!凄い!綺麗ですねっ」

汚れを知らぬ真っ白な花は、一刻と四半刻程の時間をかけてゆっくりと花開き、朝にはその生を終える。
感嘆が入り混じった彼女の声を聞きながら、光秀は花を一瞥した後、自らの腕の中にいる凪へ視線を落とした。夜の闇の中でさえ輝きを帯びる眸は、星にすら勝る程だ。そんな彼女を見つめたまま、光秀が柔らかく面持ちを綻ばせる。

「……ああ、綺麗だな」

偽りのない本心を唇に乗せた。男の科白が眼の前で咲き誇る、真白な花へ向けられたものだと受け取った凪が、嬉しそうに顔を見上げて来る。

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