第1章 序章
ここは坂戸城下にある屋敷
葉月は着物に襷をかけ薙刀を振っていた
「お父上がお呼びで御座います」
最後にヒュンと一振し薙刀を壁に立て掛けた
『お父さま、お呼びでしょう?』
「また鍛練か?」
はぁっと小さなため息をこぼしながら
父は自分の前に座るように促した
『はい。武家の娘の嗜みです』
にこにことして襷を外し父の前に座った
「我が家は武家じゃないぞ?」
『あら、でも私の大好きな与六お兄さまは武士ですよ?
何よりも私が体を動かすのは好きですから』
「.....お転婆め」
『なにか仰いました?お父さま』
呟いた声に対し、にっこりと微笑みを浮かべた
「何でもない.....全く、そんなのだから嫁の貰い手が.......」
『お、父、さ、ま?』
再びボソボソと呟く父の前で
襷を弄びながらフフフと笑うと父はわざとらしく咳払いをした
「ゴホン、お前の大好きな与六から文が届いたぞ」
『まあ、なんと書かれていたかお聞きしても?』
小首を傾げ問いかけると簡潔に父は答えた
「久方ぶりにお前に会いたいと」