第6章 本編 第13章 黒の時代
「相変わらず、何処までも優しいねぇ……君は、」
太宰は徳冨に投げつけられ、顔に乗せられた何かーー皺が多く寄っているハンカチを見つめながら小さく呟くと、突如、彼の目前に大きな手が現れた
それは織田の手だった
先刻は太宰が織田に手を貸していたのに、今となっては立場が逆転していた
「蘆花ちゃんを追わなくても善いのかい? 織田作」
「太宰、」
手を取りながら言葉を発する太宰に織田は顔を顰めながら彼を呼んだ
「先刻のはやり過ぎだ、蘆花が怒るのも無理はない」
織田の言葉に太宰は暫し熟考しながら口を開いた
「……確かに、蘆花ちゃんには少し刺激が強過ぎたかもしれないねぇ……織田作、後で蘆花ちゃんに謝っておいてくれないかい?」
「……"謝罪ならば自分でした方が善い、その方が気持ちは伝わる"」
最も正論な言葉と共に織田は切り捨てた、そして、その言葉に少々、目を見張らせた太宰であったが、直ぐに口を尖らせると言葉を紡ぐ
「……私では無理だから頼んでいるのだよ」
ーー太宰の言葉通り、顔を合わせれば喧嘩ばかりする2人がどうも仲直りをする処等、織田にはどうやっても想像することが出来なかった
織田は小さく息を吐き、暫しの沈黙の後に口を開いた
「……そうだな、一応は伝えておこう」
「有難う、織田作」
「嗚呼……じゃあ、俺は行く……先に行った蘆花が心配だ」
笑みを浮かべた太宰に小さく頷いた織田はその言葉と共に彼に背を向けた、すると、その背に向けて彼が織田の名を口にする
「安吾を頼む」
「嗚呼、判ってる」
力強く発せられたその言葉と共に織田、そして、太宰は其々の道へと歩みを進めたーー