第3章 本編 第5章 羅生門と虎
徳冨が居なくなった室内は嵐が去ったように静かであった
その空気を壊すように国木田の溜め息と共に太宰が呼ばれた
「おい、太宰! 一体、徳冨と何があったんだ」
「……さぁねぇ、私も何故、あんなに執拗に狙われるのかも判らなければ、怒られるのかも……判らないよ」
肩を竦めた太宰に再度、息を吐いた国木田は言葉を続けた
「……これ以上、干渉はしないが、払ってもらうものは払ってもらうぞ、彼奴が帰って来なければお前に払ってもらうからな!」
国木田の言葉に太宰は目を見開かせて叫んだ
「えぇっ!? 何故私が!?」
「元々お前も原因なんだぞ!? 関係ないとは言わせん! それが嫌ならば徳冨を連れ戻して来い! 判ったな!」
太宰に向けて指をさすと共に出てゆく国木田に再度、肩を竦めながら見つめていたが、彼はその背中を見送ると同時に呟いた
「……国木田君に言われなくても、健次郎君は必ず連れ戻すよ」
その言葉は誰にも聞かれずに呟かれた
そして、太宰は小さく笑みを浮かべながら告げた
「……"漸く、彼を見つけられたのだから"」
目を閉じると共に太宰の脳裏には先程、心の内を叫んだ徳冨の表情が思い浮かぶ
「本当に、健次郎君は寂しがり屋だな……」
しかし、それは何処か悲しげな表情でもあった